「ノアの箱舟」(創世記六~九章)の話は、辛く悲しい物語です。
「人の悪が増し、常に悪いことばかりを思いはかり、堕落し不法が満ちている」のをご覧になった神の深い心痛はわかるにしても、なぜ動物たちが巻き添えにならなければならないのか。洪水で犠牲になったおびただしい命を考えると胸が張り裂けそうになります。
また、ある方はこの場面を読みながら「ノアの息子の妻たちの心情を想像すると胸が痛む」と言われました。なぜなら、彼女たちの家族は箱舟に乗ることができず、自分たちだけが生き残ってしまったからです。
イギリスの画家ジョン・エヴァレット・ミレイが描いた『箱舟への鳩の帰還』という絵があります(左図はその絵をエッチング風に加工したもの。原画は精密な色彩画)。この二人の若い女性はノアの息子の妻たちで、一人は鳩を胸に抱きながらオリーブの小枝を見つめ、もう一人は鳩にくちづけしつつ遠くを見つめています。二人に笑顔はありません。二人ともどこか深い悲しみをたたえたまなざしをしています。
「ノアの箱舟」の洪水は、わたしは神の涙だと受け止めています。この話では神も人も涙を流しているのです。破滅に向かう人間の救いがたく病んだ罪。その破滅の中を生き延びる命が抱える悲しみ。それでもなお神が示される「平和と希望の約束(虹)」の下に、涙をぬぐいながら、生き延びた
恵みを大切に胸に抱いて、神と共に生きていくようにと私たちを招いているのです。
