巻頭言「野原に賛美は響く」加藤誠

 アドベント三週目は「喜びのともし火」を受けていきます。

 二千年前、飼い葉桶の中に「救い主」の赤ん坊を探し出した羊飼いたちは喜びあふれて、賛美を歌いながら野原を帰っていきました。

 赤ん坊はかわいいものです。赤ん坊を抱かせてもらうと自然に笑みがこぼれ、心のよろいが解かれて優しい気持ちにさせられます。けれども、最初のクリスマスに「救い主」を見出した羊飼いたちが喜びにあふれたのは、天使から告げられたことが「ほんとうのこと」であり、あの真夜中の天使との遭遇が「幻覚」などではなく「確かな事実」であったことが判明したからです。そして、主なる神は野原に暮らす自分たちのことをしっかり覚えて一緒に歩んでくれていることが「分かったから!」です。「神、共にいませり」。それまでどんなに確かめたいと願っても、雲をつかむようだった「神の愛のまなざし」を確かに感じることができたからでした。

 ベトザタの池で三十八年間病気に苦しんできた男が主イエスと出会い、立ち上がって歩き出した物語を想います(ヨハネ五章)。この男は池のほとりに「横たわって」いました。主イエスとの会話から垣間見えるのは、この男が人生をあきらめている様子です。「誰も助けてなんかくれない。みんな自分のことばかり」。彼の心の中にたまっていた恨みつらみが噴出します。けれども、その彼が自分のことをまっすぐに見つめ、その弱さもねじれも我がこととして受けてくれる「主のまなざし」と出会った時、彼は神に向かう賛美と共に立ち上がり、それまで寝ていた床を担いで歩き出します。それは「喜びのともし火」に照らされた新しい歩みの始まりでした。