巻頭言「恐れることはない!」加藤 誠

 主イエスが私たちに手渡してくださった「神の国の福音」の大切なメッセージの一つは「恐れることはない!」です。

 私たちはいろいろなものを恐れます。人びとの目や言葉を恐れ、自分のコントロールの及ばない力を恐れ、病気に不安を覚え、死を恐れます。「一喜一憂」の言葉どおり、私たちの笑顔は次の瞬間にもたらされる小さな不安にあっという間にかき消されます。

 ヤイロという会堂長がいました。当時の会堂長は村長のような役割を担い、村人たちの諸課題を裁く立場にありました。が、そのヤイロにしてどうにも手の及ばない問題がありました。愛する娘の病気です。彼は主イエスの前にひれ伏し、娘の癒しを請い願います。その願いを受けた主イエスがヤイロの家に向かう途中、想定外のことが起こります。主イエスが一人の女性との対話にこだわり立ち止まられたのです。この時、かすかな希望の光に力づけられていたヤイロの顔がどんどん曇っていったことでしょう。そして愛娘の訃報がもたらされた時、ヤイロの目はすっかり光を失い、顔は土気色になったことでしょう。

 しかし、そのヤイロに向かって主イエスは言われます。「恐れることはない。ただ信じなさい!」と。「何を」恐れず、「何を」信じろというのでしょうか。「自分の無力」を恐れるな。「神の国は確かに来た。神の愛が確かにあなたとあなたの家族を包んでいる!」との良き知らせを信じ、受け取りなさい!…ということでしょう。私たちが恐れを抱いているものから、神の国と神の愛にしっかりと心と体を「方向転換」して向けていく。その幸いを主イエスは私たちに手渡してくださったのです。