ローマ皇帝のもとに囚人として護送される途中、パウロの乗った船が嵐に遭い難破の危機に直面します。船長をはじめ乗組員たちが恐怖に襲われてパニックに陥る中、陣頭指揮に立ったのは囚人パウロでした。
「船にいたわたしたちは、全部で二百七十六人であった。」(使徒27・35)。
今にも沈みそうな船上でルカが乗組員全員の人数を正確に記録していることに驚かされます。きっとパウロが嵐の中で点呼を取らせたのでしょう。「一人も犠牲者を出させない。必ずみんなで生き延びるのだ!」というパウロの強い決意がそこに見えるようです。
またパウロは「どうぞ何か食べてください。生き延びるために必要だから」と語りかけ、パンを取って神に感謝の祈りをささげ、それを裂いて食べ始めていますが、その姿はまるで主イエスと重なります。
実際パウロは、嵐の中で「勇気を出せ。エルサレムでわたしのことを力強く証ししたように、(あなたは)ローマでも証しをしなければならない」(23・11)と語りかける主イエスの声を聞いていたのでしょう。パウロは激しい嵐の中に主イエスと共に、主イエスの語りかけの中に立てられていたのでした。
嵐の大波に揺さぶられ漕ぎ悩む船は、この世界の中で理不尽な暴力に翻弄される「神の国を求める小さな群れ」(ルカ12・32)を象徴しているかのようです。しかし復活の主は「小さな群れ」と共にあり、嵐の中で主の食卓に招いて励まし、神の国の使命に固く立たしめてくださいます。
この方の声をあやまたず聴いていきたいのです。