巻頭言「同じ出来事、違う景色 広木 愛」

 福音書を読み進めていると、同じ内容なのだろうけれども若干違う物語が掲載されています。福音書は、回覧されていたルーズリーフのようなイエスさまの出来事メモとイエスさまについての言い伝えをもとに、福音書記者の人たちがそれぞれに伝えられている物語を元に一冊にまとめられていったもの。だから複数の福音書があって、その物語も微妙に異なっていると聞きました。

 4つを比べてみると、福音書記者がいた礼拝共同体、今のわたしたちの教会・・とも言い換えていいのかもしれませんが、その人たちが何を大切に、イエスさまの物語を伝えていたのかがわかるのだそうです。

 教会で年間主題をみんなで選ぶ作業は、福音書ができる過程に似ていると思います。福音書記者が、自分たちに伝えられたイエスさまの物語と手元にあるイエスさまの言葉が記された小さなメモをまとめていく作業は、教会に連なる一人一人が、今生きている中で、福音をどのように受け取り、言葉化していく作業です。

 弟子たちは、手元にパンが一つしかないことに動揺しました。でも、イエスさまがみて欲しかったのは、五千人以上で一緒に食事をした時、その必要が満たされたという神さまの業。

 今、目の前で起こっていることをどのように理解していくのか、イエスさまの目に映る景色は、どんなものだったのかを一緒に考えていきたいなぁと思います。私たちは、同じ聖書を読みながらも、それぞれが神さまのメッセージをいただきます。聖書から見えるそれぞれのちょっと違う景色を、分かち合いながら、今私たちが置かれている現実の中で、神さまに私たち自身も、社会も、そして教会も、再構築されていきましょう。