巻頭言「共に軛(くびき)を負う方」加藤誠

共に軛(くびき)を負う方

加 藤  誠

 映画『プリズン・サークル』は、島根の刑務所で実践されている教育プログラムを受けた受刑者たちが、対話を通して自らの人生と向かい合い、犯した罪を見つめて少しずつ変えられていく姿を描いたドキュメンタリーである。

 受刑者たちが犯した犯罪はさまざまだが、共通しているのは成育歴における過酷な虐待やいじめ体験である。子ども時代の恐怖、怯え、悲しみや寂しさ。それを言葉にして誰かに聞いてもらい、今の彼らを支配している得体のしれない怒りの正体を知り、少しずつ自分を客観視できるようになっていく。

 ある受刑者がこんなふうに語っていた。「刑務所で番号で呼び捨てにされ、お前はどうしようもない最低な人間だと詰問されている時には、どうして自分だけがこんな辛い目に会うのかと思い、被害者にも『お前だって悪い!』と的外れな怒りをぶつけていた。けれども自分の話を真剣に聴いてもらい、自分の辛い思いを吐き出せて、背中をそっと押してくれる人の存在を知った時に、はじめて被害者の気持ちを考えることができるようになった」。

 「人は独りでいるのは良くない。彼に合う助ける者を造ろう」(創世記2・18)。「彼に合う助ける者」とは「向かい合い一緒に荷物を背負うパートナー」の意である。人が独りで背負うには過酷な重荷を負わされた時、その重荷を受けとめ聴いてくれる人を必要とする。「疲れた者、重荷を負う者は、だれでもわたしのもとに来なさい。休ませてあげよう」(マタイ11・28)。「共に軛(くびき)を負う方」として来てくださった主イエス。教会はその主イエスを紹介しつつ、できれば私たちもお互いに誰かの言葉を聴き、その背中にそっと手を添える存在になれたらと思う。約五年間、特に若い世代の一人ひとりの伴走者の働きを担ってくださった広木愛牧師に深く感謝を表すとともに、私たち一人ひとりがその役割を担い合えるよう祈っていきたい。