巻頭言「ヨブの問い、神の答え」加藤 誠

 旧約聖書のヨブ記は、「神は必ず悪人を裁き、義人を祝福されるのだ」というそれまでの伝統的な神理解に真っ向から挑んでいる特異な書物です。

 ヨブは家族と富に恵まれた人で、神を正しく礼拝する信仰者でした。

 ところが家族も富もすべて失い、自らも重い皮膚病に苦しむ中で、ヨブはそれまでずっと気づかずにきた、この世界を覆う数多くの不条理に目を開かれ、神を問う者となります。

 「神よ、あなたの正しさはいったいどこにあるのですか?」と。

 その問いに対して、ずっと沈黙を守ってきた神が、最後の最後で語り始め、ヨブを叱責します。

 「すべてのものを創造し、一つひとつの命を不思議の中に存在させているわたしの、いったい何をおまえは知っているというのか!」と。

 つまり、神はすべてのすべてであり、「義人を滅ぼし、悪人を栄えさせても、神は神なのだ!」と答えられたのです。

 私たち人間は「悪人を裁き、義人を祝福してこそ、神のはずだ!」という、自分の「納得できる論理」の中に神を押し込めようとする。しかし私たち人間の論理をはるかに超えて「神は神である!」と聖書は答えるのです。

 ヨブは人間の知恵で神を断罪しようとしたのですが、神は創造者なる神の自由と主権をもって答えられました。信仰とは、神についての知識を得ることでも、納得することでもない。私たちの「納得」をはるかに超えて、私たちを愛し、悪人を生かしめ、裁き、救われる神。イエス・キリストの十字架にあらわされた神の真実の愛の前にひれ伏して生きていくことなのです。