この年末から年始にかけてアンゲラ・メルケル著『わたしの信仰』を手にしました。メルケルは旧東ドイツで牧師の娘として育ち、大学で物理学を専攻する優秀な科学者でしたが、三十代半ばでベルリンの壁崩壊を経験して政治の世界に飛び込み、五一歳でドイツ初の女性首相になりました。
数々の難局において、政治家メルケルが何を大切にしようとしてきたのか。キリスト教的な人間観に基づき、あらゆる人(ドイツ人だけでなく)の尊厳を守ろうとし、被造物に対する責任をまっとうしようとする姿勢など、その信仰を垣間見ることのできるスピーチ集です。メルケルは「あなたがたは自由のために召し出された」(ガラテヤ5・13)を引用しつつ、「信仰と自由、責任」について次のように語っています。
・キリスト者の出発点は…神がわたしたち一人ひとりを創られたということです。それによって、わたしたちには責任が伴いますが、同時に信じられないほどの庇護も受けているのです。
・神を信じる人間として、全能者でありたいという欲望に決して陥ったりすることなく、自分が引き受ける課題の中に「へりくだり」も含まれているというのは、政治の世界ではとりわけ重要なことだと思います。
・ドイツの連邦議会には非常に多くのキリスト者の議員がいます。わたしたちはしばしば意見が一致しませんが、だからと言って他の人を「悪いクリスチャンだ」とか「いいクリスチャンだ」と決めつけるような人はいません。これはまさに、キリスト教信仰がわたしたちに責任を引き受ける力を与えていることを意味します。信仰がわたしたちに、良い意味で論争し、最善の道を求める能力を与えてくれているのです。(『神はあやつり人形を望まれませんでした』)