『み栄えとみ座を去り』という讃美歌があります(新生讃美歌一四六番)。原題は、“Thou didst leave Thy Throne”。一番二番は主イエスの誕生を、三番四番はその生涯と十字架の最期を、五番は天国の希望をうたい、「住みたまえ、イエスよ、わたしの心に」という繰り返しのフレーズが心に残る美しい曲です。
主イエスは王座を捨てて来られたのに、ベツレヘムには歓迎する家はなく、神の生ける言葉として人を自由にされたのに、最期は嘲りと苦しみを受けて死んでいかれた。わたしを永遠に神の愛の傍らに置くために来てくださった主イエスよ、どうかわたしの心に住んでください…と作者は祈るのです。
十字架において神の愛は人間の罪に勝利されたにも関わらず、その勝利と栄光は人々の目に隠されたままでした。わたしたち人間が自分の正しさ、知恵、優しさに固執している限り、十字架に啓示された神の愛を見いだすことはできません。わたしたちが自らの罪、愚かさ、弱さ、情けなさを知るところで、はじめて十字架に啓示された神の愛は見えてきます。
この讃美歌の五番はこう直訳されます。「あなたの勝利がはっきり示され、天の鐘が鳴り、天使たちが歌う時、あなたの御声がわたしを招く。『我が傍らに居場所あり、来たり休め』。わたしの心は、主イエスよ、あなたを賛美します。あなたがこの世に来て、わたしを呼んでくださったゆえに。」
十字架に向かう主イエスに「これはわたしの愛する子、これに聞け」という声が天から響きました(マルコ9・7)。この方を心に迎え、この方に聞く時、天に響く賛美が届けられます。どんな強い風が吹き、どれほどの暗闇が覆っても、その賛美が取り去られることはないのです。