巻頭言「神の国の秘密の「種」 加藤 誠」

主イエスがゲッセマネで捕縛されて裁判を受け十字架で処刑されるまでの時間は、わずか十二時間ほどのこと。一般民衆がことの次第を知って騒ぎ出すと困るので、その夜のうちにすべて決着がつくようにと、あらかじめ仕組まれた筋書き通りに事が運ばれた。最高法院でのでっち上げの証言、用意された判決、そして総督ピラトに圧力をかけるため集められた群衆たち。

人間の歴史においては昔も今も、権力者が司法と軍隊を手中にしているところでは、「邪魔者」はこのように悲しいくらいにあっさりと消されていく。ミャンマーでは市民たちが国軍の弾圧による犠牲を隠蔽させまいと必死にスマホを用いて証拠を集めて抵抗しているが、国軍は一切その非を認めようとしない。「地の上」では銃と金を持つ者たちが強いのである。

主イエスの弟子たちの信仰は、この「地の上」の現実にみごとに木っ端みじんにされた。あれよあれよという間に主イエスは連れ去られ十字架の上の釘付けにされた。「今からでもイエスさまのところに駆けつけよう。俺たちはイエスさまに愛してもらった弟子じゃないか。このとき踏ん張らないでいつ踏ん張るんだ!」。何度立ち上がり、部屋の扉を開けようと手を伸ばしたことだろう。しかしその最後の一押しができない、情けない弟子たちであった。

けれどもその彼らの心に、小さな神の国の秘密の「種」がすでに蒔かれていた。情けないほど小さな者たちが「御心の天になるごとく、地の上になりますように」と神さまの前に頭をさげて祈る時、「神さまの天と私たちの生きる地は確かにつなげられる!」という神の国の秘密の「種」が、主イエスによって確かに蒔かれていたのだ。