巻頭言「建物に刻み込まれた神の恵み 加藤 誠」

 いよいよ現礼拝堂の解体が始まった。約六九年間、福音宣教のために使わせていただいた礼拝堂の建物が少しずつ取り壊されていく様子を見ていると心に突き刺さってくるものがある。ここにイエス・キリストを証しする群れを建て続けてくださった主なる神に心から感謝するとともに、この礼拝堂に日々集い、早朝から祈りをささげ、主を礼拝し、キリストを証しする人生を歩み通した大井教会の先達たちの信仰を、静かに深く大切に心に憶えたい。

現礼拝堂建物の備品等でぜひ遺しておきたいものとして、十字架塔の鐘、バプテストリーの十字架、礼拝堂正面池上通り側の銘板(日本地図と聖書の上に十字架のデザイン図)、定礎板(一九五二年十一月)、前土地所有者(紋谷医院)の御影石の門柱などがある。

鐘は初代牧師の大谷賢二・松枝夫妻のご親族から寄贈されたものであり、磨き直して新礼拝堂の上に掲げられることになる。またバプテストリーの十字架は石井康之兄を記念してご家族から献げられたもので、やはり新礼拝堂の建物内で用いられる予定である。門柱は土地取得前に大谷賢二先生が手を置いて祈った柱であり、定礎板の文字は大谷松枝先生の揮毫による。現礼拝堂二階の和室前の欄干や階段の手すり、サイドルームと礼拝堂との間を支えていた柱などの一部を切り取って「現礼拝堂の記念品」をつくる計画も話し合われている。「教会は建物ではない、人である」と言われるが、その建物には教会を形づくってきた信仰者たちの証しと、彼女・彼らを大胆に用いられた神の恵みが刻み込まれている。その証言を大切に次の世代に受け継いでいきたいと願う。「しかし、働いたのは、実はわたしではなく、わたしと共にある神の恵みなのです」(第一コリント15・10)。