小さな祈りは「壁」を越えて   加藤 誠

わたしがAPBF(アジア太平洋バプテスト連合)の働きに関わるようになったのは東日本大震災後のことです。震災を覚えてアジアの兄弟姉妹たちから篤い祈りと共に次々に献金が届けられました。連盟が宣教師を派遣し交流を深めてきた国だけでなく、見知らぬ兄弟姉妹たちからも献金が届きました。見えないところで日本の教会はアジアの友の祈りに支えられていることを深く実感させられる場面となりました。
またアジア各地の災害支援をしているAPBAid(アジア太平洋バプテスト支援機構)のメンバーが来日し、インドネシアやニュージーランドでの働きを分かち合ってくださったのですが、その中の一人、インドネシアのビクター・レンベス牧師はかつて牧師をしていた祖父が日本軍によって殺された方でした。牧師で英語を話せるというだけで敵のスパイと見なされたのです。自の前で父が殺されるのを目撃したレンベス牧師のお母さんは長い間、日本人を憎み許せなかったと言います。しかし1970年代に日本の婦人連合(当時)からインドネシアを訪問した女性たちと出会い、信仰による交わりに導かれる中、少しずつ心が癒されていったそうです。後日聞いたところでは、日本から訪問した女性の一人は大谷レニー先生であり、レンベス牧師のお母さんはその招きを受けて大井教会にも来られたと聞いて、不思議なつながりを覚えました。
かつて日本軍が悲しみを与えた土地から、日本の震災を覚えて祈りを携えてきてくださった信仰の友人たちの証しに触れるとき、そこに込められている祈りの深さを覚えずにはいられません。イエス・キリストの和解の働きは今日もやむことがありません。その小さな祈りは紡ぎ合わされて、人間が作りだす「壁」を越えていくと信じます。