「福音」という事件   加藤 誠

これからイースターに向かう約二か月の間、「マルコによる福音書」が紹介しているイエス・キリストの「福音」に聴きたいと考えています。

「神の子イエス・キリストの福音の初め」(マルコ1・1)。
マルコはこの言葉をもってイエス・キリストにおいて起こった「福音」という事件の紹介をはじめます。「福音」とは「良き知らせ」という意味ですが、そこには二つの意味があります。
一つは、「イエスが伝えた福音」。イエスが人々に語り、その行動で示した「良き知らせ」です。
もう一つは、「イエス・キリストという福音」。この福音書を書いたマルコたちにとってイエス・キリストという人格と存在そのものが「良き知らせ」であり「喜び」だったのです。
それは、ちょっとやそっとの出来事ではありませんでした。それまでの自分が打ち壊されて、新しく創り変えられる。見える世界がまったく違ったものになる、価値観、人生観、世界観の大転換。それがマルコたちにとってのイエス・キリストとの出会いでした。その意味で事件だったのです。
この「福音」という事件を、何とかして多くの人々に知ってもらいたいとマルコたちは福音書を書いたのですが、一つ覚えておきたいのは、それは戦争の時代だったということです。ユダヤという国がローマ帝国の暴力の前に完全に叩きのめされた時代でした。しかし、「福音」は人を神の愛に向けて変えます。神と共に歩む喜びの中に人を招き入れます。そして、「福音」は決して消えることのない希望に人を生かす。その事件をマルコたちは紹介したのです。