「我、ここに立つ!」   加藤 誠

「我、ここに立つ!」とはマルティン・ルターの言葉です。

ルターは「キリストの教会は、神の僕であり、神の言葉また命令であると認識していること以外には従えない。しかしローマ教皇は自らの言葉を最終権威としてキリストの言葉を自分に従わせている」と、当時のカトリック教会を激しく批判し破門されました。一五二一年、ルターはヴォルムスの帝国議会に召喚され、自説の過ちを認めるように迫られます。居並ぶ国家権力者と教会権力者たちを前に、ルターはその演説を次の言葉で締めくくりました。

 

「皇帝陛下ならびに諸侯がたは簡潔な答えを要求されます。それでは簡潔に、ありのままをお答えします。聖書の証によってわたしの誤りを証明し、わたしの良心が神の言葉によってとらえられない限り、わたしは何事も取り消すことはできません。なぜなら良心に反して行動するのは、なすべきことではないからです。わたしは断固としてここに立つものです。それ以外のことはできません。神よ、わたしを助けたまえ。アーメン。」

 

「我、ここに立つ!」とは、ヴォルムスという場所のことではありません。「聖書の神の言葉に立つ」という意味です。人間の最高権威が要求したとしても、聖書の神の言葉から要請されていないことには従わない。なぜなら、聖書の言葉だけが、私たち人間を救うことのできる言葉であり、時代や世界が変わろうとも、永遠に変わることのない神の言葉だから。ルターの宣言は、当時の教会権力の束縛から人間の良心を解放すると同時に、一人ひとりが神の前に自らの責任を引き受けて生きていく信仰の主体化の宣言であったのです。